20代のライバーが40代の男に刺殺されるという痛ましい事件が発生しました。連日報道されているのを目にすると、同様の事件が頻発しているように感じられ、不安を覚えます。
もちろん、過去にも同様の事件は存在したものの、センセーショナルな報道が少なかっただけで、実際の犯罪件数が増加しているとは断定できません。しかし、事件の背景にある社会構造の変化を考察することは重要でしょう。
貨幣至上主義と歪んだ承認欲求
社会学者のマイケル・サンデルは、著書の中で「何でもお金で買える社会」の危険性を指摘しています。現代社会では、商品やサービスだけでなく、人間関係や感情までもが商品化される傾向にあります。今回の事件も、そうした貨幣至上主義がもたらした歪みの一つの現れと捉えることができるかもしれません。
事件の根底には、加害者側の歪んだ承認欲求があると推測されます。投げ銭やコメントを通じて、ライバーとの疑似的な関係を築き、自己肯定感を得ようとしたものの、その関係がビジネスであることを理解できず、一方的な好意が募り、最終的に事件に至ったのではないでしょうか。
ライバーの実態とビジネスモデル
インフルエンサーでありライバーの女性から話を聞く機会がありました。彼女は、一部のファンからのコメントに違和感を覚え、中には危険を感じるほど執拗なものもあったそうです。そうしたファンの中には、突如として態度を豹変させる者もおり、彼女は身の危険を感じたと言います。
ライバーの中には、炎上商法と呼ばれる手法でエンゲージメントを稼ぐ者もいます。過激な発言や挑発的な態度で注目を集め、コメント数やフォロワー数を増やすことで、収益向上につなげるのです。彼女も、そうした戦略の一環として、あえて危険なコメントにも反応していたそうですが、内心では恐怖を感じていたそうです。
ライバー業界には、「アイドル営業」という戦略も存在します。ファンに対して、疑似恋愛感情を抱かせるような言動や振る舞いをすることで、熱心なファンを獲得し、収益を向上させるのです。これは、キャバクラなどの水商売にも共通する手法ですが、ライバーの場合、より個人的な繋がりを演出しやすい分、ファンとの距離感が曖昧になりやすく、トラブルに発展するリスクも高まります。
サービスと好意の線引き
キャバクラなどでは、あくまでサービスとして客をもてなしているのであり、個人的な好意があるわけではありません。しかし、それを明確に伝えることは、集客に繋がらないため、曖昧な表現に留まっています。同様に、ライバーもビジネスとしてファンと交流しているものの、その線引きは曖昧になりがちです。
今回の事件は、そうした曖昧な関係性がもたらした悲劇と言えるでしょう。換金主義に偏り過ぎたビジネスモデルは、一部のファンの歪んだ承認欲求を刺激し、現実との区別がつかなくなる事態を招きかねません。

技術革新と倫理観の欠如
サンデルが指摘するように、現代社会は行き過ぎた貨幣至上主義に陥っていると言えるかもしれません。しかし、テクノロジーの進化はそれを加速させている側面もあります。
匿名性と責任の所在
インターネットの匿名性は、自由な情報発信を可能にする一方で、誹謗中傷やデマの拡散を助長する側面も持ち合わせています。匿名性を悪用した犯罪も増加しており、責任の所在が曖昧なまま、被害者が泣き寝入りせざるを得ないケースも少なくありません。

良い時代とは言えない側面
パソコンの高速化や生成AIの登場など、技術革新は目覚ましく、エキサイティングな時代であることは間違いありません。しかし、倫理観の欠如や格差の拡大など、負の側面も無視できません。
今回の事件を教訓に、社会全体で倫理観の醸成に取り組み、テクノロジーの恩恵を最大限に活かしつつ、負の側面を抑制する努力が必要です。
必要な対策と意識改革
今回の事件を受けて、プラットフォーム側は、ライバーに対する安全対策の強化、ファンに対する注意喚起の徹底など、より一層の取り組みが必要です。また、ライバー自身も、ファンとの距離感を適切に保ち、危険な人物には毅然とした態度で対応することが重要です。
ファン側も、ライバーとの関係はあくまでビジネスであることを理解し、過度な期待や依存心を抱かないように自制する必要があります。
事件の再発を防ぐためには、社会全体の意識改革が不可欠です。貨幣至上主義に偏ることなく、人間としての尊厳や価値を大切にし、互いを尊重しあえる社会を目指すべきです。

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