従業員50名程度の民間企業では、情報システム部を設置するほどの規模ではないことが一般的です。しかし、情報システムの重要性が増す現代において、専門部署がないことは様々な問題を引き起こす可能性があります。本記事では、そうした企業が直面する問題点と、それを解決するためのベストプラクティスを事例を交えながら解説します。
情報システム部がないことによる問題点
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セキュリティリスクの増大:
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問題点: 専門知識を持つ担当者がいないため、セキュリティ対策が不十分になりがちです。ウィルス対策ソフトの更新漏れ、脆弱性への対応の遅れ、不審なメールへの対応不足など、様々なリスクが考えられます。特に中小企業は、大企業に比べてセキュリティ対策が甘いと見られ、サイバー攻撃の標的になりやすい傾向があります。
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事例: ある製造業では、従業員が個人的に使用しているUSBメモリを通じてウィルスが社内ネットワークに侵入し、基幹システムがダウン。生産ラインが数日間停止し、大きな損害が発生しました。セキュリティ対策が十分でなかったことが原因でした。
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IT資産管理の不徹底:
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問題点: 従業員が使用するPCやソフトウェアのライセンス、ネットワーク機器などのIT資産の管理が行き届かない可能性があります。誰がどのPCを使用しているのか、どのソフトウェアがインストールされているのか、ライセンスは有効か、といった情報が把握できていない場合、不正利用やコンプライアンス違反のリスクが高まります。
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事例: ある小売業では、従業員が退職後も会社支給のPCを私用で使用し続け、機密情報が漏洩する事件が発生しました。IT資産管理が徹底されていなかったために、退職者のアカウント削除やPC回収が遅れたことが原因でした。
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システム障害時の対応遅延:
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問題点: システムに障害が発生した場合、専門的な知識を持つ担当者がいないため、復旧までに時間がかかり、業務に支障をきたす可能性があります。特に基幹システムが停止した場合、業務全体がストップしてしまうことも考えられます。
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事例: ある物流会社では、サーバーの故障により配送システムが停止。復旧に数日を要し、顧客への配送遅延が発生し、信頼を失いました。専門のIT担当者がいなかったため、外部業者への依頼に時間がかかり、迅速な対応ができませんでした。
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IT戦略の欠如:
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問題点: 経営戦略に基づいたIT戦略が策定されないため、場当たり的なIT投資に終わる可能性があります。最新技術の導入や業務効率化のためのシステム導入など、将来を見据えた計画的な投資が行われず、結果的にコストが増大してしまうこともあります。
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事例: あるサービス業では、複数の部門がそれぞれ異なるシステムを導入したため、データ連携がうまくいかず、業務効率が悪化しました。全社的なIT戦略がなかったために、部門間の連携が考慮されず、無駄な投資が発生しました。
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ベンダーとの交渉力不足:
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問題点: ITベンダーとの契約交渉において、専門知識がないために不利な条件で契約を結んでしまう可能性があります。システムの選定や価格交渉、保守契約の内容など、適切な判断ができず、不要なコストを支払ってしまうこともあります。
- 事例: ある建設業では、システム導入時にベンダーの言いなりになり、高額な保守費用を支払う契約を結んでしまいました。専門知識を持つ担当者がいなかったため、契約内容を十分に理解できず、不利益を被りました。
情報システム部がない企業のためのベストプラクティス
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IT担当者の育成:
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対策: 社員の中からITに詳しい人材を選び、外部研修やセミナーに参加させるなどして専門知識を習得させます。最初は簡単な業務から担当させ、徐々に高度な業務を任せることで、IT担当者として育成します。
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ポイント: IT担当者には、セキュリティ対策、IT資産管理、システム運用などの基礎知識を習得させるだけでなく、経営戦略に基づいたIT戦略の策定やベンダーとの交渉スキルも身につけさせることが重要です。
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外部委託(アウトソーシング)の活用:
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対策: ITに関する業務を専門の業者に委託することで、専門知識を持つ人材を確保し、セキュリティ対策やシステム運用を強化します。ITに関する業務をすべて外部委託するだけでなく、特定の業務のみを委託するなど、企業の状況に合わせて柔軟に対応することが可能です。
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ポイント: 外部委託業者を選ぶ際には、実績や技術力だけでなく、企業の規模や業種に合ったサービスを提供できる業者を選ぶことが重要です。また、委託する業務範囲や費用、契約内容などを明確にしておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
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セキュリティ対策の強化:
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対策: ウィルス対策ソフトの導入、ファイアウォールの設定、不正アクセス対策など、基本的なセキュリティ対策を徹底します。従業員へのセキュリティ教育を実施し、不審なメールへの対応やパスワード管理の重要性を周知することも重要です。
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ポイント: 定期的にセキュリティ診断を実施し、脆弱性を発見して対策を講じることも重要です。また、万が一、セキュリティ事故が発生した場合の対応手順を事前に策定しておくことで、被害を最小限に抑えることができます。
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IT資産管理の徹底:
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対策: PCやソフトウェアのライセンス、ネットワーク機器などのIT資産を台帳で管理し、定期的に棚卸しを実施します。従業員が使用するPCやソフトウェアを把握し、不正利用やコンプライアンス違反を防止します。
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ポイント: IT資産管理ツールを導入することで、効率的にIT資産を管理することができます。また、退職者のアカウント削除やPC回収を徹底することで、情報漏洩のリスクを低減することができます。
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クラウドサービスの活用:
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対策: サーバーやソフトウェアなどのITリソースをクラウド上に構築することで、初期費用を抑え、柔軟にITリソースを拡張することができます。また、クラウドサービスは、セキュリティ対策が充実している場合が多く、自社でセキュリティ対策を行う手間を省くことができます。
- ポイント: クラウドサービスを選ぶ際には、セキュリティ対策や可用性、料金などを比較検討し、自社のニーズに合ったサービスを選ぶことが重要です。また、クラウド上にデータを保存する際には、データのバックアップや暗号化などの対策を講じることも重要です。
まとめ
情報システム部が存在しない中小企業は、セキュリティリスクの増大、IT資産管理の不徹底、システム障害時の対応遅延、IT戦略の欠如、ベンダーとの交渉力不足など、様々な問題に直面する可能性があります。これらの問題を解決するためには、IT担当者の育成、外部委託(アウトソーシング)の活用、セキュリティ対策の強化、IT資産管理の徹底、クラウドサービスの活用などの対策を講じることが重要です。これらの対策を講じることで、情報システム部がない中小企業でも、安全かつ効率的にITを活用し、ビジネスを成長させることができます。
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